こんなご相談を、いただくことがあります。
「連休に、久しぶりに会う人たちと集まる予定があります。
たのしみなはずなのに、いまから気が重くて。
「最近どう?」と聞かれるのが、こわいんです。
報告できるような近況が、なにもありません。
うまくいっていないわけじゃないけれど、話せるようなことも起きていない。
なにか言わなきゃと思うほど、口が動かなくなります」
もし、いま似たような気持ちでいるなら。
だいじょうぶ。
あなただけじゃないですからね。
今日は、この「最近どう?」について、ぼくなりに思っていることを書いてみます。
「最近どう?」は、質問の形をした挨拶です
まず、いちばん最初に置いておきたいことがあります。
「最近どう?」を口にしている人の多くは、じつは、答えを求めていません。
あれは、質問というより、挨拶に近いんです。
「暑いですね」と、そんなに変わらない。
会話をはじめる合図として、いちばん手近にあるから使われているだけ。
でも、まじめな人は、まじめに答えようとします。
そして、まじめに答えようとした瞬間に、頭のなかで、この一年の棚卸しがはじまってしまうんですね。
なにか変わったことはあったか。
人に話して、おもしろがってもらえることはあったか。
去年の自分と比べて、前に進んだと言えるか。
たった三文字の挨拶に、こんなに大きな作業をさせられている。
だから、しんどいんです。
あなたの答えが貧しいんじゃなくて、あなたが誠実に受け取りすぎているだけなんだと思います。
しんどいのは、質問じゃなくて、そのあとの顔
もうひとつ、あると思っています。
「最近どう?」と言われた瞬間に、胸のあたりがヒヤッとする。
あれは、答える材料がないからこわいんじゃなくて、答えたあとの相手の顔を、先に想像してしまうからだと思うんです。
「へえ」の温度。
そこで会話がつづくかどうか。
少しだけ間があいたときの、あの数秒。
つまり、あなたのなかで起きているのは、近況報告じゃなくて、近況審査なんですよね。
しかも、審査結果は自分で決めています。
相手はまだ、なにも言っていないのに。
繊細ながんばり屋さんは、この先読みがとても速いです。
それは、人の気配を読む力が高いということでもあるので、いいところでもあるんですが、この場面では、自分にだけ厳しく働いてしまう。
ぼくが、近況をいちばん言えなかったころ
ぼくには、部屋からほとんど出られなくなっていた時期があります。
事業をやっていて、そこからアディクションに沈んで、人に会えなくなりました。
あのころ、いちばんこわかった言葉が、まさにこれです。
「最近、なにしてるの?」
なにもしていなかったからです。
たまに連絡が来ると、「まあ、ぼちぼちやってるよ」と返していました。
そして、送ったあと、何時間も落ちこむ。
うそをついた自分がいやになるし、うそをつかないと会話に入れない自分にも、うんざりする。
いまふり返って思うのは、あのころのぼくに必要だったのは、答えられるだけの立派な近況ではなかったな、ということです。
必要だったのは、答えなくていい、という許可のほうでした。
そして、それはだれかがくれるものではなくて、自分で自分に出すものだったんですね。
「なにもない」は、なにもないという意味じゃない
ここは、ちゃんと書いておきたいところです。
報告できることがない一年は、なにも起きていない一年ではありません。
つづけた。
やめた。
耐えた。
手放した。
だれかに、そっと優しくした。
朝、起きられない日があっても、次の日また起きた。
どれも、聞かれて答える形をしていないだけで、ちゃんとあったことです。
世の中の「近況」は、たいてい、変化のことを指します。
転職した、引っ越した、なにかを始めた。
でも、変えないでいることのほうが、ずっと力がいる場面って、けっこうありますよね。
その一年に、報告の形がついていないだけ。
だから、「話せることがない」と思ったときは、こう置きかえてみてほしいんです。
ないんじゃなくて、まだ言葉になっていない。
会話は、ボールを持ちつづけなくていい
もうひとつ、実際的な話を。
近況の質問がしんどくなるのは、たいてい、ボールを長く持ってしまうからです。
ちゃんと答えなきゃ、と思うほど、話は長くなる。
長くなるほど、相手の反応が気になる。
気になるほど、うまく話せなくなる。
だから、やることはひとつだけです。
短く渡して、すぐ返す。
会話は、キャッチボールであって、プレゼンではありません。
持ち時間は、短いほうがらくです。
そして、これは冷たいことでもありません。
むしろ、相手に話す番を渡しているので、たいていの人は、そのほうがうれしいんです。
今日の小さな一歩:「近況カード」を一枚だけ用意する
3分でできます。
出かける前の、ほんの少しの準備です。
① 事実をひとつだけ、決めておく。
大きくなくていいです。というより、大きくないほうがいい。
「最近、朝がすずしくてよく眠れてます」
「近所に新しいパン屋ができたんですよ」
これで、じゅうぶん通ります。がんばった話も、変化の報告も、いりません。
② そのあとにつづける、返す質問をひとつ決めておく。
「そっちはどう?」でいいです。ほんとうに、これでいいんです。
用意しておくと、口が勝手に動いてくれます。
③ ①と②を、セットで一回だけ言う、と決める。
それ以上は、用意しない。話が広がったら、そのとき考えればいい。広がらなかったら、それは会話が終わっただけで、あなたが失敗したわけではありません。
用意するのは、話す内容じゃなくて、渡し方です。
ここがポイントで、内容を用意しようとすると、「もっといい近況を持っていかなきゃ」という方向にいってしまう。
それをやると、当日までずっとしんどいままです。
渡し方だけ決めておけば、中身はなんでもよくなります。
そして、もし当日うまく言えなくても、責めないでください。
用意した時点で、あなたはもう、その場に行く準備をしています。
おわりに
連休の初日ですね。
会いたい気持ちと、ちょっとこわい気持ち。
その両方が同時にあっても、いいんです。
どちらかが本物で、どちらかが嘘、ということはありません。
そして、あなたのこの一年は、報告できるかどうかとは関係なく、ちゃんとありました。
だれかにうまく話せなくても、あなたのなかには、ちゃんと残っています。
焦らず、比べず、背伸びせず。
短く渡して、あとは相手にパスして。
そのくらいの軽さで、通り抜けていきましょうね。
