連休が明けた、木曜の朝です。
五日ぶんの休みが終わって、日常がまた動きはじめて。
ふと残高を見て、胸のあたりがザワッとする。
思っていたより、減っている。
しかもふしぎなのは、そのモヤモヤが、
自分のために買ったものより、
人のために使ったぶんのところで、いちばん長く止まることなんですよね。
会う人へのちょっとした手みやげ。
みんなのぶんまで出したごはん代。
実家に置いてきたもの。子どものリクエスト。
そのときは、よろこんでもらえてうれしかったはずなのに。
数字になったとたん、なぜか、ただ「減ったもの」の顔をしている。
そして、そんなふうに思ってしまった自分に、またちょっとがっかりする。
そんなあなたへ。
だいじょうぶ、あなただけじゃないですからね。
「支出」の欄に入れっぱなしにしない
今日、ぼくが書きたいのは、節約の話でも、使い方の正解の話でもありません。
置き場所の話です。
人のために使ったお金って、
記録のうえでは「支出」という一行にしかなりません。
でも、暮らしのうえでは、消えてはいないんですよね。
財布からは、たしかに出ていった。
出ていって、あの人の手のなかに、あの日の食卓に、
あなたとだれかのあいだに、かたちを変えて置かれている。
減ったのではなくて、移った。
数字の欄は、そこまで書いてくれません。
だから、こちらで一行、書き足してあげる必要があるんです。
ぼくは、人に使うお金を、ずっと計算していました
すこしだけ、昔の話をさせてください。
ぼくは若いころに事業をはじめて、そのあとうまくいかなくなり、
アディクションを抱えて、部屋から出られなくなりました。
うまくいっているつもりだったころ、
ぼくは人に使うお金を、いつも「あとで返ってくるか」で測っていました。
だれと食事をするか。だれに、なにを贈るか。
ぜんぶ、そろばんをはじいたうえで決めていたんです。
だからぼくは、けっこう使っていました。
それなのに、手元には、ふしぎなくらい、なにも残らなかった。
そして、うまくいかなくなったとき。
計算して使ったぶんは、きれいに消えていました。
返ってこなかったからではありません。
ぼく自身が、その人たちの前に出られなくなったからです。
でも、たったひとつだけ残っていたものがあります。
なんの得にもならないのに、気がついたら使っていたぶん。
損得を考えるより先に、手が出ていたぶん。
それだけが、ぼくのなかで、まだあたたかいまま残っていました。
いま思えば、あれが答えでした。
返ってくることを期待したお金は、返ってこないと消える。
なにも期待しないで出したお金だけが、あとからしずかに残る。
でも、「もっと人に使いましょう」と言いたいわけじゃない
ここは、はっきり書いておきたいところです。
繊細ながんばり屋さんは、
人のために使いすぎて、自分のぶんを削ってしまうことがあります。
みんなが気まずくならないように、多めに出す。
断ると悪いから、笑って払う。
そういう出費まで「うつくしいこと」にしてしまうと、
あなたはどんどん、しずかにすり減っていきます。
だからぼくは、たくさん使いましょうとは言いません。
ただ、すでに使ったぶんを、
「減った」の欄に入れっぱなしにしないでください、と言いたいだけなんです。
もう出ていったお金を、
これから何度も引っぱり出して、裁きなおす必要はないですから。
つみへらし、という言葉をぼくは大切にしています。
足すより、手放す。
こころのなかの帳簿も、同じです。
反省を足していくのではなくて、
何度も見返す用の後悔を、ひとつ手放してしまう。
お金の「行き先」を、いちど見てあげる
お金って、金額の話になったとたん、
なぜか、人としての評価みたいな顔をしはじめます。
使いすぎた自分は、だらしない。
計算できない自分は、おとなじゃない。
でも、そうじゃないんです。
明細に並んでいるのは、あなたの人格ではなくて、
この数日、あなたの気持ちがどこに向かったかの、うすい記録です。
そして、人のために使ったお金というのは、
「あなたの気持ちが、ちゃんと外に向いていた」という記録でもある。
それは、けっこうすごいことだと思うんですよね。
自分のことでいっぱいいっぱいのときは、
人のためにお金なんて、使えませんから。
今日の、3分
連休明けの木曜に、これだけ。
① この連休で、だれかのために使ったものを、ひとつだけ思い出す
たくさん思い出さなくていいです。ひとつで十分。
小さいものほどいいです。飲みものひとつ、でもかまいません。
② 金額ではなく、そのときの相手の顔か、声を、5秒だけ思い出す
「ありがとう」の言い方でも、笑った顔でも、なんでもいいです。
ここで金額を思い出そうとすると、ぜんぶ台なしになるので、そこだけ気をつけて。
③ メモに、一行だけ書く
「これは、減っていない」
それだけです。
合計も、来月の予算も、今日は考えなくていい。
一行書くと、こころのなかで「支出」の欄に貼りついていたその出費が、
すっと別の場所に移っていきます。
やわらかい締め
連休が終わって、また日常です。
減った数字を見て、ちょっとしょんぼりした朝でも、
あなたのお金は、ちゃんとだれかのところまで歩いていきました。
歩いていったものは、消えたわけじゃない。
あなたの見えないところで、まだ、そこにあります。
焦らず、比べず、背伸びせず。
今日は、一行だけ。
だいじょうぶ。
あなたがだれかのために動かしたものは、あとからちゃんと、あなたに返ってきますからね。
