立夏を過ぎて、日ざしがすこし強くなってきましたね。
歩いているだけで、じんわりと汗ばむ。からだがなんとなく重い。気づけば、夕方にはもうぐったりしている。
そんな日が、増えていませんか。
そんなあなたへ。
だいじょうぶ。あなただけじゃないですからね。
季節の変わり目は、自分でも気づかないうちに、からだが無理をしています。今日は、むずかしいことは何もなく、ただ「水を飲む」という、いちばん身近な所作の話を、させてください。
何気ない動作こそ、こころを整える
禅の世界には、所作を大切にする、という考えかたがあります。
歩く。座る。お茶をいれる。そのひとつひとつを、ていねいに行う。何気ない動作こそが、修行であり、こころを整える時間になる、という教えです。
むずかしく聞こえるかもしれません。
でも、たとえば、こういうことなんです。
のどが渇いたから、ペットボトルをガッと開けて、立ったまま、ゴクゴクと一気に流しこむ。スマホを見ながら、味も感じずに、ただ水分を「補給」する。
それを、ほんの少しだけ、変えてみる。
コップに水をそそぐ音を、聞いてみる。ひとくち口にふくんで、つめたさを感じてみる。ゆっくり、のどを通っていくのを、味わってみる。
たったそれだけで、ただの「補給」が、こころを整える「ひととき」に変わります。
不思議なもので、ていねいに飲むと、こころのほうも、すっと静かになるんです。せかせかしていた呼吸が、すこしゆっくりになる。それだけで、肩のあたりが、ふっとゆるんでいきます。
かつてのぼくは、からだの声を、ずっと無視していた
正直に打ち明けると、かつてのぼくは、自分のからだを、道具みたいに扱っていました。
起業して、走りつづけていたころ。のどが渇いても、お腹が空いても、眠くても、「あとで」と言って、ぜんぶ後回しにしていました。からだのサインより、目の前のやるべきことのほうが、ずっと大事だったんです。
コーヒーとエナジードリンクで、無理やりからだを動かして。水なんて、ろくに飲んでいませんでした。
その先に待っていたのは、こころとからだの限界でした。
走りすぎて、お酒や刺激に逃げるようになって。最後は、人と会うのもこわくなって、部屋から出られなくなった時期があります。
動けなくなって、ようやく気づいたんです。
ぼくは、いちばん身近な相棒であるはずの、自分のからだの声を、ずっと聞いてこなかったんだな、と。
からだは、ずっと、ちいさな声で「水がほしい」「休みたい」と言っていた。ぼくが、それを無視しつづけていただけだったんです。
「ちゃんと水を飲もう」という、健康の話ではなくて
こう書くと、健康のために水分をとりましょう、という、よくある話に聞こえるかもしれません。
でも、ぼくが伝えたいのは、健康法ではないんです。
水を、ていねいに飲む。
それは、後回しにしてきた自分のからだに、「ちゃんと、あなたを気にかけているよ」と、伝えてあげる時間なんです。
がんばり屋さんほど、自分のことを後回しにします。からだの声を、いちばん最後に聞きます。
だから、一日に何度かやってくる「水を飲む」という瞬間を、自分をいたわる、ちいさな合図にしてみてほしいんです。
なぜ「水を飲む」なのか、と思われるかもしれません。
理由は、かんたんです。だれでも、一日に何度も、かならずやることだから。
瞑想をしましょう、と言われると、身がまえてしまいますよね。時間も、場所も、特別な準備もいりそうで、続ける前にあきらめてしまう。
でも、水を飲むなら、今日も、あなたは何度もしているはずです。その、もうやっている動作のなかに、ほんの少しだけ「ていねいさ」を混ぜるだけ。
新しいことを足すのではなく、いつもの動作を、すこし味わう。これも、ぼくの大切にしている「引き算」のかたちなんです。整えるために、何かを増やさなくていい。
今日できる、ちいさな一歩
今日から、こんなふうにしてみませんか。
ひとつ。水を飲むときだけ、スマホから手を離す。たった10秒でいいんです。その10秒は、自分のからだとだけ、向き合う時間にする。
ふたつ。一気に飲まずに、ひとくち、ふたくちと、ゆっくり。つめたさや、のどを通る感覚を、ちゃんと味わう。
みっつ。飲み終わったら、心のなかで、そっと言う。「いつも、おつかれさま」と。
たったこれだけです。
でも、一日に何度もある「水を飲む」が、自分をいたわる小さな儀式に変わります。
汗ばむ季節は、からだが、いつもより少しだけ、あなたの手助けを必要としています。
特別なことは、いりません。
ただ、いちばん身近な所作を、ていねいに。それだけで、こころとからだは、すこしずつ整っていきます。
がんばりすぎる人ほど、自分のからだを、いちばん後回しにしてしまう。だからこそ、いちばん身近なこの一杯から、自分をいたわってあげてほしいんです。
焦らず、比べず、背伸びせず。
今日もまた、自分のからだと仲よく、トコトコ歩いていきましょうね。
次に水を飲むとき、あなたは、その一杯を、味わってあげられそうですか。
