眠りが浅い夜に、スマホをそっと遠ざける

ふとんに入って、目をとじる。からだは、くたくたなのに。

なぜか、ねむれない。ねむったと思っても、夜中に、なんども目がさめる。

朝、起きても、ちっとも、すっきりしない。一日のはじまりから、もう、つかれている。

この季節、そんなふうに、眠りが浅くなっていませんか。

そんなあなたへ。だいじょうぶ。あなただけじゃないですからね。

五月は、気温も、気圧も、ゆれうごく季節です。からだが、まだ夏のリズムに慣れていない。そのうえ、連休明けで、こころも、ちょっと疲れている。

そんなとき、眠りが浅くなるのは、ごく自然なことなんです。あなたのからだが、だらしないからでは、ありません。むしろ、季節の変わり目に、ちゃんと反応している、敏感なからだの証拠です。

ただ、ひとつだけ。その浅い眠りを、さらに浅くしてしまう習慣があります。

それは、ねむる前の、スマホです。

正直に打ち明けると、かつてのぼくは、スマホを握ったまま、ねむる人間でした。

こころが、いちばんしんどかった時期。部屋から出られなくなって、夜と昼が、逆さまになっていたころ。

ねむれない不安を、まぎらわせたくて。ぼくは、ずっと、スマホの画面を見つめていました。

ニュースを追って。だれかの楽しそうな投稿に、こころがざわついて。気づけば、空が、白んでいる。

スマホは、ぼくのさみしさを、まぎらわせてくれているようで。ほんとうは、ぼくのこころを、もっと、ざわつかせていたんです。

眠るために手にとったはずなのに、いちばん、眠りから遠ざけられていた。安心を、さがしに、画面をひらいて。そこで、もっと、不安になって、また、ひらく。その繰りかえし。

あの小さな画面の光は、ぼくたちのこころに、こう言ってきます。「まだ、起きていなさい」「もっと、情報を入れなさい」と。

夜なのに、脳に、昼だと、嘘をつかせる。そうして、こころは、休むタイミングを、見うしなっていきます。

寝つけないと、よけいに、スマホをひらきたくなる。ひらけば、また、目がさえる。そうやって、眠れない夜が、自分で自分を、長くしていく。

ぼくも、その、出口のないループのなかで、何度も朝を迎えました。だから、わかるんです。あれは、意志が弱いのではなく、しくみの問題なんだと。

それに、夜に見る情報は、ふしぎと、わるいほうへ、こころを引っぱります。昼間なら、受け流せるニュースも。夜の、しずかな部屋では、やけに、ぐさりと、刺さってしまう。

夜は、こころの、いちばん、やわらかい時間です。だからこそ、その時間に、なにを入れるかは、とても、大切なんです。

きれいな水を、こころに、すこし。ざわつく情報は、朝の、元気なときに、まわす。それだけでも、夜の質は、ずいぶん、変わってきます。

そして、もし、それでも眠れない夜が、来たとしても。「眠らなきゃ」と、あせらないであげてください。

あせればあせるほど、眠りは、にげていくものですから。「眠れなくても、横になって休んでいれば、いっか」。それくらいの、ゆるさのほうが、かえって、すっと、眠りはおとずれます。

眠れない夜を、こわいものに、しなくて、いいんです。ただ、目をとじて、からだを、横たえている。それだけでも、からだは、ちゃんと、休まっていますから。

眠れた、眠れなかったで、自分を、採点しない。そのまなざしの、やわらかさが、いちばんの、ねむり薬なのかもしれません。

でも、夜は、本来、こころを手放す時間です。

その日にあったことを、そっと、置いていく。明日の心配を、いったん、棚にあげる。

引き算をして、こころを軽くしてから、ねむりにつく。それが、本来の、夜のすごし方なんだと思います。

スマホを見ながらねむろうとするのは。両手に、たくさんの荷物を抱えたまま、横になろうとするようなものです。それでは、からだも、こころも、休まりません。

だから、ねむる前は、すこしだけ。あの小さな画面と、距離をとってみませんか。

今日できる、小さな一歩。いきなり「スマホをやめる」のは、むずかしいものです。意志の力で、がまんしようとすると、たいてい、うまくいきません。そして、がまんできなかった自分を、また、責めてしまう。

だから、まずは、置き場所を変えるだけ。

ねむる三十分前に、スマホを、手のとどかない場所に置いてみてください。できれば、ふとんとは、別の部屋に。むずかしければ、部屋の、いちばん遠い棚の上にでも。

充電器ごと、すこし遠くへ。それだけで、ふしぎと、手がのびなくなります。

がまんではなく、しくみで、そっと手放す。これが、いちばん、らくなやり方です。意志に頼らない。それが、つづけるコツです。

そして、空いた手で。すこし、ストレッチをしたり。あたたかい白湯を、ひとくちのんだり。

照明を、すこし暗くして。今日いちにちの、自分のからだに、「おつかれさま」と、つぶやいて。

「もう、今日はおしまい」と、こころに、そっと声をかけてあげてください。

焦らず、比べず、背伸びせず。眠れない夜も、責めなくて、だいじょうぶ。

スマホを、すこし遠ざけて。今夜は、あなたのこころから、そっと荷物をおろしてあげましょうね。

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