人と同じものを、買わなくてもいい

ある読者の方から、こんなお悩みをいただいた気がして、きょうは、その声に答えるように書いてみます。

「まわりが持っているものを、つい、自分も買ってしまいます。そんなに欲しいわけでもないのに。気づけば、お金も、部屋のものも、増えていくばかりで、しんどいんです」

ああ、わかります。この気持ち、痛いほど、わかるんです。

そんなあなたへ。だいじょうぶ。あなただけじゃないですからね。

まわりの人が持っているものが、よく見える。あの人も、この人も、持っている。自分だけ持っていないと、なんだか、取りのこされる気がする。

その不安から、つい、財布のひもを、ゆるめてしまう。

これは、あなたの意志が弱いからでは、ありません。人間の、ごく自然な、こころのうごきなんです。だれかと同じでいると、すこし、安心する。それは、本能みたいなものですから。

ただ、ひとつだけ、立ちどまって考えたいことがあります。

それを買うとき、あなたは。「自分が、欲しい」から買っているのでしょうか。それとも、「人と、同じでいたい」から買っているのでしょうか。

このふたつは、似ているようで、まったく、ちがうものなんです。前者は、こころが満ちる買い物。後者は、こころの穴を、いちじ、ふさぐだけの買い物。

正直に打ち明けると、かつてのぼくは、後者ばかりでした。

起業して、すこし羽振りがよかったころ。ぼくは、まわりに見栄をはるために、ずいぶん、お金を使いました。

いい時計。いい服。いい店。「できる人間」に見られたくて。自分の価値を、持っているもので、証明しようとしていたんです。

でも、いくら買っても、こころは、満たされませんでした。

買った瞬間だけ、すこし、安心する。でも、すぐにまた、足りなくなる。となりの芝生は、いつまでたっても、青いままでした。

人と同じものを手に入れた、と思った次の瞬間には。もう、別のだれかが、もっといいものを持っている。このレースには、終わりが、なかったんです。

その渇きを、ぼくは、お酒や刺激で、まぎらわせるようになって。最後は、ぜんぶ失って、部屋から出られなくなりました。

ぜんぶ失って、なにも持たなくなったとき。ぼくは、はじめて、気づいたんです。持ちものが、ひとつもなくなっても、ぼくは、ぼくのままだった、と。

肩書きも、お金も、いい服も、ぜんぶ、はがれ落ちて。それでも、残ったものが、あった。それが、ほんとうの、ぼくでした。

外がわに足していたものは、ぜんぶ、ぼくの価値とは、関係がなかったんです。むしろ、足せば足すほど、ほんとうの自分が、見えなくなっていた。

いま、ぼくは、ずいぶん、持ちものが減りました。でも、こころは、あの頃より、ずっと、ゆたかです。

ゆたかさは、持ちものの数では、ありませんでした。いまの自分で、じゅうぶんだ、と、うなずけること。それが、ほんとうの、ゆたかさだったんです。

人と同じものを、ひとつ買わないでいると。そのぶん、自分の「好き」が、すこし、はっきりしてきます。

まわりにあわせていたら、見えなかった、自分の色。買わない、という引き算が、その色を、すこしずつ、教えてくれるんです。

あのとき、ぼくが本当に欲しかったもの。それは、いい時計でも、いい服でもなかった。

ありのままの自分で、だいじょうぶだという、安心感のほうでした。それだけは、お金では、どうしても、買えなかったんです。

禅に、『知足』(ちそく)という言葉があります。足るを、知る。

いま、自分が持っているもので、じゅうぶん満たされている、と気づくこと。

人と同じものを買って、安心しようとするのは。外がわに、こころのよりどころを、さがしている状態です。

でも、本当の安心は、外には、ないんです。どれだけモノを足しても、満たされない穴は、こころのなかにあるからです。外がわのモノでは、内がわの穴は、ふさがらない。

それは、「いまの自分で、じゅうぶんだ」と、こころのなかで、うなずけたときに、すっと、おとずれます。足し算ではなく、気づきによって。

だから、人と同じものを、無理に買わなくても、いいんです。あなたは、人とちがう色で、ちゃんと、うつくしいんですから。

You can be any color you want.あなたは、あなたの好きな色で、いていい。

今日できる、小さな一歩。なにかを買おうとして、レジに向かうとき。あるいは、ネットで、購入ボタンを押す前に。

いちど、こころのなかで、こう問いかけてみてください。

「これは、わたしが欲しいもの?それとも、人と同じでいたいだけ?」

たった、ひと呼吸。その問いを、はさむだけでいいんです。

もし、「わたしが欲しい」だと、こころから思えたなら。それは、どうぞ、よろこんで買ってください。それは、あなたの彩りを、ゆたかにしてくれる買い物です。

でも、もし、「人と同じでいたいだけ」だと気づいたら。そっと、買い物かごを、閉じてみる。

それは、ケチではありません。他人の色ではなく、自分の色を、えらぶ、ということです。

焦らず、比べず、背伸びせず。あなたのお財布も、こころも。人とくらべるのを、すこしずつ、やめていけたらいいですね。

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