月曜日の朝。
目を覚ました瞬間から、もう、だれかの顔が浮かんでいませんか。
あの人を怒らせないようにしよう。あの人に、ちゃんと評価されよう。あの人の期待に、応えなきゃ。
まだベッドの中なのに、もう、自分以外のだれかのために、こころが動きはじめている。
そんなあなたへ。
だいじょうぶ。あなただけじゃないですからね。
人の顔色をうかがってしまうのは、あなたが、まわりをよく見ているやさしい人だから。でも、それがいきすぎると、いつのまにか、自分の人生なのに、自分がわき役になってしまう。
今日は、そんなあなたに、ぼくの大好きな禅語をひとつ、お渡ししたいんです。
『主人公』という、禅語があります
主人公。
そう、物語の主役のこと、ですよね。
でも、もともとこの言葉は、禅から生まれたものなんです。『主人公』(しゅじんこう)と読みます。
昔、瑞巌(ずいがん)というお坊さんがいました。このお坊さんは、毎日、自分で自分に呼びかけていたそうです。
「おい、主人公」
すると、自分で「はい」と答える。
「目を覚ましているか」
「はい」
「これからも、人にだまされるなよ」
「はい、はい」
──ひとりで、ずっとこんな問答をしていた、という話です。
はじめて知ったとき、ぼくは、なんだか不思議な人だなあ、と思いました。
でも、いまならわかる気がするんです。
ここでいう「主人公」とは、まわりに流されない、ほんとうの自分のこと。だれの目も気にしない、こころの真ん中にいる、静かな自分のことなんです。
瑞巌さんは、毎朝それを呼び起こして、「今日も、自分を見失うなよ」と、確かめていたんですね。
かつてのぼくは、自分の人生の、わき役だった
正直に打ち明けると、かつてのぼくは、自分の物語の主人公を、ずっと空席にしていました。
起業してからは、とにかく、まわりの期待に応えることばかり考えていました。取引先に気に入られたい。スタッフに、いい経営者だと思われたい。だれかにダメな奴だと思われるのが、こわくてたまらなかった。
気づけば、ぼくの毎日は、ぼくのものではなくなっていました。
ぼくの一日の主役は、いつも、ぼく以外のだれか。その人たちの評価が、ぼくの機嫌を決めて、ぼくの価値を決めていました。
その先に待っていたのは、空っぽな感覚でした。
どれだけ人に評価されても、こころは満たされない。走りすぎて、お酒や刺激に逃げるようになって。最後は、人と会うのもこわくなって、部屋から出られなくなった時期があります。
部屋にひとりでいると、ふと思ったんです。
ぼくは、いったい、だれの人生を生きてきたんだろう、と。
ずっと、自分という物語の客席にすわって、舞台の上のほかのだれかに、拍手ばかりしていた。肝心の主役の席は、ずっと、からっぽのままだったんです。
「わがままになれ」と、言いたいわけではありません
こう書くと、もっと自分勝手に生きろ、ということに聞こえるかもしれません。
でも、ぼくが言いたいのは、そういうことではないんです。
主人公に還るというのは、人を押しのけて、自分を通すことではありません。
ただ、自分の人生の真ん中に、もういちど、自分をそっと座らせてあげること。
まわりの人を大切にする、そのやさしさは、そのままでいい。ただ、その輪のいちばん内側に、自分自身も、ちゃんと入れてあげる。それだけのことなんです。
あなたが大切にしている人のなかに、あなた自身が入っていますか。
もし、そこに自分がいなかったとしたら。今日から、いちばん前の席に、そっと自分を案内してあげてください。
評価より、自分の声を、ひとつ。
ぼくが、部屋から出られなかったあの時期に、すこしずつ立ちなおれたのは、特別なことをしたからではありません。
毎朝、たったひとつ、「今日は、自分のために何をする?」と、自分に問いかけることから始めたんです。
最初は、「あたたかいコーヒーを、ちゃんと淹れて飲む」くらいの、ほんとうに小さなことでした。
でも、その小さな問いかけが、すこしずつ、空席だった主役の椅子に、ぼく自身を座らせてくれた。だれかの評価で動いていた毎日に、ほんの少しずつ、自分のいろが戻ってきたんです。
You can be any color you want.
あなたには、あなただけのいろがあります。だれかの期待というモノクロに、塗りつぶさせてしまうには、もったいないんです。
今日できる、ちいさな一歩
瑞巌さんの真似を、ほんの少しだけ、してみませんか。
朝、鏡の前に立ったとき。心のなかで、そっと自分に呼びかけるんです。
「おはよう、主人公」
そして、こう聞いてみる。「今日、いちばん大事にしたいことは、なに?」
それは、だれかの期待でも、評価でもなくて。あなた自身の、こころの声です。
ちいさなことでいいんです。「今日は、ちゃんとお昼を食べる」でも、「今日は、無理して笑わない」でも。
ひとつだけ、自分のための約束を、自分と交わしてみる。
そして、夜。眠る前に、もういちど呼びかける。
「今日も、おつかれさま。主人公」
それだけで、いいんです。
今日一日、だれかのために生きすぎたあなたを、最後にあなた自身が、ねぎらってあげる。
人生という舞台の主役は、ずっと、あなたです。
まわりの人は、大切な共演者。でも、主役の席だけは、だれにも譲らなくていい。
焦らず、比べず、背伸びせず。
今日もまた、自分の物語を、自分のペースで歩いていきましょうね。
あなたの人生という物語、いちばん前の席に、いま、だれが座っていますか。
