布団に入ったのに、目だけが、さえている。からだは疲れているはずなのに、こころが、ぴんと張って、眠りに落ちていけない。
そんな夜、ありませんか。
しかたなく、枕もとのスマホに手をのばす。明るい画面を、ぼんやり、眺める。気づけば、SNSを、上へ下へとスクロールして。時計を見ると、もう、こんな時間。あした、起きられるだろうか——。
そして、眠れないまま、焦りだけが、つのっていく。
そんなあなたへ。だいじょうぶ。あなただけじゃないですからね。
眠れないのは、こころが、まだ「働いている」から
眠れない夜の正体は、たいてい、こころが、まだ「仕事中」だということです。
布団に入っても、頭のなかでは、まだ一日がつづいている。昼間の出来事を、何度も再生したり。あしたの段取りを、ぐるぐる考えたり。言えなかったひとことを、いまさら反芻したり。
からだは、横になって休もうとしているのに、こころだけが、まだ働きつづけている。その「ズレ」が、ぼくたちを、眠りから遠ざけてしまうんです。
そして、ここがやっかいなのですが——眠れないときにスマホを見ると、こころの「働く時間」が、さらに延びてしまいます。
画面の光は、脳に「まだ昼だよ」と、勘ちがいさせます。SNSの情報は、こころに、新しい考えごとを、どんどん運んできます。つまり、眠るために手にとったはずのスマホが、いちばん、眠りを遠ざけているんです。
それでも、つい、手がのびてしまう
とはいえ。「スマホがよくない」なんて、ほんとうは、あなたも、わかっているんですよね。
わかっているのに、つい、手がのびてしまう。それは、あなたの意志が弱いからでは、ありません。眠れない夜の、あの心細さから、なにかにすがりたくなる——それは、ごく自然な、こころの動きです。
暗くて、しずかで、ひとりきりの夜。そこにある不安から、すこしでも気をそらしたくて、ぼくたちは、光るものに手をのばす。だから、まず、その自分を、責めないであげてください。
責めるかわりに、手のとどかない場所に、そっと置いておく。意志でがまんするのではなく、はじめから、手がのびない仕組みにしておく。そのほうが、ずっと、やさしくて、うまくいきます。
「眠ろうとする」のを、手放す
こういうとき、つい、ぼくたちは「早く眠らなきゃ」と、がんばってしまいます。でも、眠りというのは、がんばって、つかみにいくものでは、ないんです。
「眠らなきゃ」と力めば力むほど、こころは緊張して、よけいに、目がさえてしまう。
だから、ぼくがおすすめしたいのは、すこし、逆のことです。「眠ろう」とするのを、いったん、手放してみる。
「べつに、今すぐ眠れなくても、いいや」「目を閉じて、ただ、からだを休めているだけで、じゅうぶん」
そう、こころのなかで、ゆるしを出してあげる。ふしぎなもので、眠ることを手放したとたん、こころの緊張がほどけて、すうっと眠気がやってくることが、よくあるんです。
かつてのぼくは、夜になるのが、こわかった
正直に打ち明けると、いちばんしんどかった時期のぼくは、夜が、こわくてたまりませんでした。
布団に入ると、昼間ごまかしていた不安が、いっせいに押し寄せてくる。それから逃げるように、夜どおし、スマホの光を浴びていました。眠れないまま朝を迎えて、ぼろぼろのからだで、また一日を走る。
そんな日々が積もって、ぼくのこころとからだは、すっかり、こわれてしまいました。
回復していく過程で、ぼくがいちばん大切にしたのが、夜の「手放し」でした。寝る前に、スマホを、すこし遠くに置く。眠れなくても、責めない。ただ、暗いなかで、息をする。
それだけのことが、ぼくの夜を、すこしずつ、おだやかなものに変えていってくれました。
特別なことは、なにもしていません。ただ、夜に、よけいなものを「足す」のをやめた。それだけです。眠りもまた、足し算ではなく、引き算なんだと思います。
今日できる、小さな一歩
今夜、ためしてみてほしい、小さな一歩を、ひとつ。ぜんぶは、いりません。ひとつでいいんです。
① 布団に入る、十五分前に、スマホを「手のとどかない場所」に置く。枕もとは、つい手がのびます。部屋の反対側や、別の部屋に。物理的に、すこしだけ、遠ざける。
② 暗くしてから、「眠ろう」を、手放す。「眠れなくてもいい。からだを休めるだけでいい」と、自分にゆるしを出す。
③ 吐く息を、長く、3回。口から、ふぅーっと、ぜんぶ吐ききる。吐くほうに、こころを置く。働いていたこころが、すこしずつ、しずまっていきます。
もし、どうしても眠れなくても。暗いなかで、ただ呼吸しているだけで、からだは、ちゃんと休まっています。だから、眠れない自分を、責めないであげてください。
夜は、一日を、手放すための時間です。今日あった、よかったことも、うまくいかなかったことも。ぜんぶ、いったん、暗闇に、そっとあずけてしまう。
焦らず、比べず、眠ろうとがんばらず。スマホの光を、そっと手放して。ただ、息をしながら、夜のやわらかさのなかに、しずんでいきましょうね。
