本当はもっと頼りたいのに気づけば、ひとりで抱えこんでいませんか。
しんどいときに「しんどい」と言えたら、どんなに楽だろうと思いながら親の前でこそ、いちばん、いい子でいようとしていませんか。
そんなあなたへ。だいじょうぶ、あなただけじゃないですからね。
もうすぐ、父の日ですね。お店にはネクタイやお酒が並んで、SNSには「お父さんありがとう」の言葉があふれて。そういうのを見るたびに、こころのどこかが、すこしざわつく。そんな人も、きっといるんじゃないかと思います。
ぼくも、そのひとりでした。
うまく甘えられない、という静かなしんどさ
「親に甘えられない」というのは、なかなか人に言いにくいものです。
ひどい目にあったわけでもない。育ててもらった恩は、ちゃんとわかっている。だからこそ、よけいに言いづらい。
ただ、なんとなく。電話をすると、つい元気なふりをしてしまう。心配をかけたくなくて、いいことばかり話してしまう。弱音を吐こうとすると、のどの手前で、ことばが止まる。
これは、わがままでも、冷たさでもありません。あなたが、それだけ長いあいだ、がんばって「いい子」をやってきた証拠なんだと、ぼくは思っています。
小さいころ、親の顔色をよく見る子でしたか。親が疲れていたら、自分のことは後まわしにしませんでしたか。泣きたいときほど、ぐっとこらえて、笑っていませんでしたか。
その癖は、大人になっても、なかなか抜けません。甘え方を、習わないまま大きくなってしまった。ただ、それだけのことなんです。
ぼくが、いちばん心配をかけた相手
正直に打ち明けると、ぼくは、いちばん近い人にこそ、本当のことを言えない人間でした。
起業して、走って、走って。うまくいっているふりを、ずっと続けていました。本当はお金のことも、こころのことも、ぐちゃぐちゃだったのに。親には「順調だよ」としか言えなかった。
そのうち、お酒や刺激に逃げるようになって。人に会うのもこわくなって、部屋に引きこもった時期もありました。
いちばんしんどかったあのとき。本当は、誰かに「もうだめだ」と言いたかった。でも、いちばん言いたい相手に、いちばん言えなかったんです。
心配をかけたくない、というのは、やさしさのようでいて。じつは、「弱った自分を見せたくない」というプライドでもありました。甘えるのがこわい。失望されるのがこわい。ぼくは、ずっと、こわかったんです。
甘えるのは、負けることじゃない
禅に『啐啄同時』(そったくどうじ)という言葉があります。
少しむずかしいですが、ひな鳥が殻のなかから「コツコツ」とつつくのと、親鳥が外から「コツコツ」とつついてあげるのが、ぴたりと同時に重なって、はじめて殻が割れて、ひなが生まれる。そういう教えです。
ぼくは、これを、こんなふうに受け取っています。——どんなに親が手を差し出してくれても、自分のなかから、ほんの少し「コツン」と音を立てないと、殻は割れない。
甘えるというのは、その「コツン」なのかもしれません。全部をさらけ出さなくていい。ただ、ほんのちょっとだけ、こちらから殻を、内側からつつく。
「最近、ちょっと疲れててさ」それだけでいいんです。助けてください、と言わなくてもいい。弱さを、ぜんぶ見せなくてもいい。
ほんの小さな「コツン」が、長いあいだ固まっていた、なにかをゆるめてくれることがあります。
間に合わなくても、だいじょうぶ
ここまで読んで、「もう、甘えられる相手がいない」と、胸が痛くなった人もいるかもしれません。
親と、もう話せない人。わかり合えないまま、距離ができてしまった人。それでも、あなたが今日まで生きてきたことに、変わりはありません。
甘え方を知らなかったのは、あなたのせいじゃない。だから、今からでいいんです。親じゃなくてもいい。友だちでも、パートナーでも、ぼくみたいな誰かでもいい。ほんの少しずつ、「コツン」を練習していけたら。
今日できる、小さな一歩
むずかしいことは、いりません。父の日を前に、3分くらいでできる小さなワークを、ひとつ。
① いちばん心配をかけたくない人を、ひとり思い浮かべる。親でも、誰でもいい。あなたが「弱さを見せられない」と感じる相手。
② その人に、今いちばん言えていない本音を、こころのなかで、ひとことだけつぶやいてみる。「本当は、ちょっとしんどい」でも、「本当は、ありがとう」でもいい。
③ もし、ほんの少しだけ勇気が出たら。そのひとことを、メッセージの下書きに、そっと書いてみる。送らなくても、だいじょうぶです。書いただけで、殻に小さなヒビが入りますから。
甘えられないまま、よくここまで来ましたね
うまく甘えられないあなたは、きっと、人一倍やさしい人です。いつも、自分より先に、相手のことを考えてしまう人。
でも、たまには。あなたが守ってきたその手のひらを、そっと開いて。誰かに、預けてみてもいいんです。
焦らず、比べず、いい子であろうとせず。ほんの少しずつ、甘え方を、おぼえていきましょうね。
だいじょうぶ。甘えるのは、弱さじゃない。殻を、内側からつつく、いちばんやさしい勇気ですから。
