「もっと早く」「もっと効率よく」──そんな声に追い立てられて、息が浅くなっていませんか?
やることは終わらないのに、時間だけが過ぎていく。
まわりはすいすい進んでいるように見えて、自分だけ遅れている気がする。
きょうは、そんな世の中で、ぼくが見たいと思っている未来の話を、すこしだけさせてください。
◆速さのものさしと、ぼく
いまの世の中は、速さや強さが、ものさしになりやすい世界だと感じています。
それ自体が、悪いことだとは思いません。
速さに助けられていることも、たくさんありますから。
ただ、そのものさしが「ひとつしかない」と、息がしづらくなる人がいる。
ぼくも、そのひとりでした。
起業して走っていたころのぼくは、速さのものさしで自分をはかり続けて、こころが折れました。
アディクションに沈んで、引きこもって、走れなくなったとき、自分の値段がゼロになった気がしました。
ものさしがひとつしかない世界では、そこから外れた瞬間に、居場所まで失ったように感じてしまうんですね。
ほんとうは、いのちの値打ちは、何ひとつ変わっていないのに。
引きこもっていたころ、ぼくは一日じゅう、頭のなかでそろばんをはじいていました。
同い年のあの人は、もうあんなに先にいる。
自分は、何ヶ月止まったままだろう。
この遅れは、もう取り返せないんじゃないか。
速さのものさししか持っていなかったから、はかるたびに、自分が小さくなっていきました。
でも、あとから気づいたのです。
しんどかったのは、遅れていたことではなくて、「遅れ」という言葉でしか自分をはかれなかったことのほうだったと。
◆ぼくが見たい未来
だから、ぼくには見たい未来があります。
働けない時期があっても、居場所がなくならない未来。
早いか遅いかではなくて、その人のリズムで働ける未来。
「何ができるか」より先に、「ここにいること」がそのまま祝福される未来。
いろんないろが、優劣ではなくて、彩りとして並んでいる未来。
You can be any color you want.
あなたは、あなたのいろでいい。
そう言い合える世界なら、ずいぶん生きやすいだろうなと、ぼくは思うのです。
夢物語みたいに聞こえるでしょうか。
でもぼくは、これを遠い理想の話だとは思っていません。
なぜなら、そういう場所の小さなかけらを、ぼくはもう、この目で見たことがあるからです。
◆半径数メートルから
いまぼくは、障害のある人たちが働く場所や、在宅医療の現場に関わっています。
そこで出会う人たちのリズムは、ほんとうにさまざまです。
ゆっくりの日もあれば、驚くほど集中する日もある。
でも、それぞれのリズムがそのまま尊重される場所では、人は、ちゃんとその人のいろで輝きはじめます。
きのうまで下を向いていた人が、ぽつりと冗談を言う日。
ずっと休んでいた人が、ひさしぶりに顔を見せてくれる日。
そういう瞬間に立ち会うたび、胸の奥が、じんわりあたたかくなります。
誰かと比べたら、小さな変化かもしれません。
でも、その人の道のりを知っていれば、それは大ニュースなんです。
その姿を見るたびに、ぼくは思うのです。
変わるべきなのは人ではなくて、ものさしの数のほうなのかもしれない、と。
ぼくにできることは、小さなことだけです。
社会をまるごと変えるような力は、ありません。
でも、半径数メートルの世界なら、きょうからでも変えていける。
目の前のひとりが「ここにいていい」と思える場所を、ひとつずつ増やしていく。
その積み重ねの先に、見たい未来があると信じています。
◆あなたに、お願いしたいわけではなくて
誤解のないように書いておくと、あなたに何かをしてほしくて、この文章を書いているわけではありません。
ただ、もしあなたがいま、速さのものさしで苦しんでいるなら、これだけは知っていてほしいのです。
そのものさしは、唯一のものさしではありません。
あなたをはかる方法は、ほんとうは、いくつもある。
きょう笑えたか。
ちゃんと眠れたか。
好きなものを、好きと言えたか。
そういうものさしで自分をはかる日が、週にすこしあるだけでも、息のしやすさは変わってくると思うのです。
◆今日の小さな一歩
きょう、自分をはかるものさしを、ひとつだけ増やしてみませんか?
「早くできたか」ではなくて、「ていねいにできたか」。
「役に立てたか」ではなくて、「ちゃんと息をつけたか」。
夜、ふとんのなかで、新しいものさしで一日をはかって、自分にひとつだけ花マルをあげてみてください。
はじめは、うまくはかれないかもしれません。
長年使ってきたものさしは、手に馴染んでいますから、つい元のものさしに戻ってしまう。
それでも、だいじょうぶ。
「あ、また速さではかってた」と気づけたら、その気づきに花マルをあげてください。
ものさしは、増やそうとした日から、すこしずつ増えていきますから。
こんな未来なら、生きやすい。
そう思える世界を、ぼくは半径数メートルから、コツコツ作っていきます。
あなたはどうか、あなたのいろのままで。
